お医者さんや歯医者さんを観察すると、触診をする先生は多くない気がします。
もうずいぶん昔のことになりますが、30年ほど前インフルエンザに感染して大学の付属病院にかかったことがありました。
そこで担当の先生がやったことといえば、「いつから熱が出ました?」と聞くことと、私と目も合わすこともなく、「じゃあお薬を出しておきましすから・・。」との二言だけでした。
私は生まれて初めてインフルエンザにかかり、あまりに体調が悪くかったので、「ただの風邪ではなく、療養しているだけでは治らないだろう」と思って時間を作って病院に行ったのですが、出てきた薬は解熱薬のボルタレン坐剤でした。
あまりにも治らないので、妻のお父さんがお医者様だったので、診てもらうことにしました。するとどうやらインフルエンザだったようで、すぐにネブライザー(気管に症状を緩和させる薬を入れた蒸気を送る装置)をかけてもらい、点滴を打ってもらい随分楽になりました。
ところがインフルエンザの熱にはボルタレンがインフルエンザ脳症を発症するリスクを高めるため禁忌だったことを知りました(大学病院にちょっと不信感?)

ただ、大学病院はものすごい数の患者さんで溢れており、とても一人一人対応できなかったのでしょう。
ところで、私が子供のころはは、おなかが痛いと訴えると、おなかの端から端まで押えながら、硬さや痛みのある部分を診て、どこに原因がありそうか診てくれる先生もいらっしゃいました。
熱がある時も、頭をまず触り、首を探り、様々な場所を触って確認してくれていた記憶があります。
私が歯科医をしていて思うのは、体を触ることで、非常に多くの情報を得られるということです。
また痛みがある時はそこにちょっと手を当ててあげるだけでも痛みは和らぎますし、しこりを発見すればそこに異常があることはすぐにわかります。
特にリンパ節の情報や、筋肉の硬さ等の情報は重要です。
また意外かもしれませんが、抜歯の際も触診は非常に重要です。
レントゲンで見ても、埋まっている歯の位置がよくわからない場合などは、歯の位置を歯茎の上から触ることで、確認することができます。
また、顎下部を触るとリンパの腫れの状態や、顎舌骨筋、顎二腹筋の緊張具合、場合によってはその人の気の状態(つまり健康状態)まで知ることができるのです。
私が思うのはお医者さんの場合はもっと触診を積極的に活用すべきと考えるのです。
触診をしない整形外科医などは全く信用なりません。
血液検査やレントゲンだけでは判断できない事が分かるのが触診の素晴らしいところなのです。
ところで私が東洋医学を勉強してわかったことなのですが、痛みは必ずしもその場所が悪いから起こっているわけではないという理論を知りました。
これは「不通則痛(ふつうそくつう)」(通らないと痛い)という考え方です。
漢方や東洋医学を勉強されている方はご存じかもしれませんが、人間の体には全身に張り巡らされた主に14本の経絡(線路や血管のような通り道で見ることはできない)が通っており、その「経絡」には「気(生命エネルギー)」が流れており、その場所が特に悪くなくても気の通りが悪い場所(ツボ)に痛みが生じるという理論です。
整形外科の先生の話で、腰痛がひどくヘルニアのある人が、ヘルニア除去手術をしても6割も治らないと聞いたことがあります。
逆にヘルニアがあっても痛みがない人も多いのです。
これは腰痛の場合、痛みのある場所を治療しても効果があるかは微妙であるということを示しています。
先ほどの「不通則痛(ふつうそくつう)」、という理論では、氣が通らないと痛みが出るといわれています。
そして「通則不痛(つうそくふつう)」(通れば痛くない)とも言われており、氣の流れが通れば痛みが無くなるのです。
マッサージに行って、痛む場所(ツボ)を押してもらうと、楽になり、全身が軽くなる感覚を得られることもあります。
押すことでその経絡の気のつまりが取れて、氣が流れるようになり、全身の機能が回復したからと考えることもできます。
WHO(世界保健機構)もツボの効果を認めており、効果は実証されているものです。
私は、東洋医学を勉強する前から、身体の触診をよくしていましたが、歯に問題がある人は、歯の場所と関係が深い場所に「しこり」や「痛み」があることに気が付いていました。
そして東洋医学を勉強した後で、経絡と歯の痛みの関係を調べてみると、見事なほど一致していることに気付き、東洋医学はすばらしいものなんだと感心しました。
治療を行うときは、触れるという作業は様々な情報を与えてくれるし、場合によっては触っただけでも歯や身体が治ってしまうので、積極的に行うべきだと感じています。