日本の皆保険制度と、本物の自由診療
私は今から30年ほど前、アメリカの大学および大学院を修了された先生に、3年間師事しました。
アメリカの歯科大学院では、一般歯科医よりも高度な治療技術が教育されており、より価値の高い歯科治療が重視されています。
その先生が、アメリカで歯科医としての倫理観として教わったのは、
「患者さんの歯と健康のために、何が最善かをまず考え、その治療に見合った価格を設定し請求する。それこそが本物の歯科治療である」
という考え方でした。
一方で、その先生が日本の保険診療を目にして感じたのは、
「治療費が先に決められ、その枠内で技術や時間を割り当てるという仕組みは本末転倒であり、患者さんにとって不利益が大きすぎる」
という強い違和感だったのです。
私自身も、先生の治療を見学する中で、日本の歯科医療の基盤である皆保険制度が、必ずしも患者さんの利益につながっていないのではないか、と感じるようになりました。
混合診療
日本の歯科治療と「混合診療」について
日本の歯科医療では、一部に限って「混合診療」が認められています。
混合診療とは、同じ患者さんの治療の流れの中で、
保険診療で認められていない材料や方法を使う場合、その部分だけを自由診療として行う
という仕組みです。
多くの方が経験されたことがあると思いますが、
根の治療を行い、土台を入れたあとに、
「かぶせ物は保険にしますか?それとも保険外の材料にしますか?」
と聞かれるケースがあります。
これが、かぶせ物の材料だけを自由診療にする、典型的な混合診療です。
部分的な自由診療の問題点
現在行われている混合診療の多くは、一本の歯、あるいは治療の一部だけを自由診療にする方法です。
しかしその多くは、お口全体を診断し、噛み合わせやバランスを考えた治療計画のもとで行われているわけではありません。
たとえば、耐久性の高い金属を使うのであれば、まだ意味がある場合もあります。
しかし、
「白いから」という理由だけで、
本来は奥歯に向かない材料を自由診療で選ぶことが、
本当にお口の健康につながるかというと、疑問が残ります。
このようなケースでは、医療費控除の対象にもなりません。
つまり国の判断でも「健康のための治療」という位置づけではないのです。
なぜ混合診療が多く行われているのか
そもそも、日本の保険診療の治療費は、
世界的な基準(特にアメリカ)と比べると、10分の1から20分の1程度と非常に低く設定されています。
そのため多くの歯科医院では、
保険診療だけでは成り立たない部分を補う目的で、
混合診療による自由診療を取り入れているのが現実です。
ただし、その場合でも、
お口全体の治療計画を立て、噛み合わせや機能のバランスまで考えて治療が行われることは、ほとんどありません。
車に例えると…
この状況を車に例えると、分かりやすいかもしれません。
・一部だけ高級な部品に交換する
・ホイールだけを見た目重視で変える
といった状態です。
車は、エンジン・足回り・ブレーキなど、
すべてがバランスよく連動してはじめて正しく機能します。
一部分だけを高級にしても、
全体の性能が良くなるとは限りません。
見た目は良くても、それは趣味の世界に近いものです。
歯科治療も同じで、
保険診療では、そもそも噛み合わせを含めた総合的な治療計画は立てられていません。
治療の質も、保険の点数に見合ったレベルにとどまります。
その土台を見直さないまま、
一部分だけに自由診療を取り入れても、
本当に正しい治療になるとは考えにくいのです。
全ての歯の治療を行い、さらに自由診療専門にしている理由
以上のことから混合診療で「一部分だけ」自由診療にお金をかけることに、
どこまで意味があるのか。
その疑問から、当院は保険診療を行っていません。
車でいえば、
30年落ちの軽自動車のエンジンのまま、
サスペンションやタイヤだけを高級なものに交換するようなものです。
全体のバランスが取れていません。
本来の歯科治療とは、
・お口全体を診断し
・噛み合わせを含めた治療計画を立て
・どの歯に、どの材料を使い
・どの技術で治療するのかを決めた上で
はじめてスタートするものだと、私たちは考えています。
さらに歯科治療は
歯と全身の健康との深い関係を理解したうえで、
歯科治療は「健康長寿のための大切な投資」であるべきだ
と考えています。
確かに、治療内容によっては一時的に費用がかかることもあります。
しかし、長い目で見てお口の健康を安定させ、
全身の健康や生活の質を維持できるのであれば、
それは結果として、
混合診療で部分的に治療を行うよりも、はるかに費用対効果の高い選択になると考えています。
日本の歯科治療は、健康保険が使えるという大きなメリットがある一方で、いくつかの構造的な問題も抱えています。
正直にお伝えすると、現在の保険診療の評価点数では、私が考える「本来あるべき歯科治療」を行うことは難しく、社会保険料を天引きされているにもかかわらず、一定レベルの治療を受けるためには自由診療を選ばざるを得ない、という弊害が生じていると感じています。
アメリカの技術から見た日本との大きな違い
私が30年以上も前に、アメリカで研鑽を積まれた先生から学んだ歯科治療では、
が当たり前に行われていました。
噛み合わせや顎の位置まで含めて、お口全体を診断し、計画的に治療するという考え方が30年も前から当たり前のようにあったのです。
当院では、私が整体やオステオパシー、東洋医学の考え方のエッセンスをこれに加え
を行い、歯を口という一部分だけでなく、全身との関係から、身体全体に良い作用を及ぼすための歯科治療を実践しています。
日本の保険診療で難しいこと
一方、日本でも「治療計画」という言葉は使われますが、
噛み合わせや顎の位置関係を咬合器を使って正しく診断したり、顎周りの筋肉のバランスや骨格のバランスまで診断しいる歯科医院は、残念ながらほとんど皆無でアメリカの大学院レベルで教育されている内容とは程遠いと入れます。
専門的な診断装置を持っていたとしても十分に活用できている知識を持っている歯科医はほんの一握りしかいないといえます。
これは大学教育レベルの質の低さと、皆保険制度が深く関係しています。
混合診療が起こす問題点
日本の歯科治療では、
基本の治療は保険で行い「白くしたい」「保険が効かない材料を使いたい」場合だけ自由診療
という形が一般的です。
しかし、それまでに行われた保険診療の治療の質自体を見直すことはほとんどありません。
その結果、お口全体の基本の治療と噛み合わせやバランスに対するレベルは保険診療レベルのまま、
一部分だけが自由診療になり、強度の高い材料や見た目の容易材料で治療するという状態が生まれます。
特に審美治療の場合は
見た目はきれいになったとしても、機能面は変わっていないばかりか、場合によっては健康に対する治療の質が以前の治療より劣ってしまっているケースが少なくないのです。
車に例えると分かりやすい
このような混合診療は、車に例えると、
全体は低価格仕様のままなのに、
ハンドルだけ本革、ホイールだけ高級品、一部の部品だけ高級車仕様に交換している
ような状態です。
これでは車としての性能やバランスは整わないだけでなく、場合によってはバランスを崩しかねません。
歯科治療も同じで、
一部分だけを自由診療にしたとしてむ、お口全体の機能が向上するとは限らないのです。
自由診療が「健康のため」を害するケースもある
近年では、歯科医院側の経営的な理由から、
「審美治療は保険が使えません」
という説明のもと、
本来は健康面に対する影響を考慮して、慎重に考えるべき自由診療が、積極的に勧められるケースも見受けられます。
中には、
健康面では必ずしもメリットが大きくない治療
広告宣伝が先行している治療
によって、患者さんとのトラブルが起きている例もあります。
(例:金属が見えない入れ歯・・コンフォートデンチャー、マウスピース矯正、セラミック治療をクイック矯正と謳うなど)
当院が大切にしている考え方
当院では、
・お口全体を一つの単位として診断すること
・噛み合わせやバランスを重視すること
・歯と全身との関係のバランスを考慮して治療を行うこと
・異常を考慮したうえで必要な材料や治療法を選択すること
を大切にしています。
自由診療とは、
「一部分を高級にすること」ではなく、
長期的にお口の健康とそれに関係する身体の状態を改善させる目的でを行われる治療計画が組まれて初めて実現すると考えています。
そのため、見た目を良くするだけが目的の治療や、
計画性のない混合診療は行っていません。
皆保険制度の弊害
歯の治療に関しては、保険医療機関である以上、原則としてすべて保険診療で対応しなければなりません。
しかし、日本の歯科保険の評価は非常に低く、その枠内で行える治療には限界があります。
その結果、アメリカなどを基準とした歯科治療の水準とは大きな差が生じ、国民全体の健康レベルを下げてしまっているという現状があります。
また、世界と比較すると、日本では保険で歯科治療が受けられるため費用が安く抑えられていますが、それが結果的にデンタルIQ(歯に関する知識や意識)が低いままになってしまう一因でもあると感じています。
実際、歯にあまり関心のない患者さんに対して、診療報酬が発生しない中で、歯の状態や全身の健康との関わりについて丁寧に説明を行っている歯科医師は多くありません。
そもそも、保険診療ではできるだけ早く治療を終えなければ採算が合わないという事情もあります。
私自身も自由診療に移行する以前は、「痛くなってから」「噛めなくなってから」来院される方が多く、全体的にデンタルIQが低いと感じる場面が少なくありませんでした。
歯と健康の関係を理解していただくための説明にも、非常に苦労したことを覚えています。
現在は、ホームページに詳しい解説を掲載し、それをある程度お読みいただいた、デンタルIQの高い方が来院される形で診療を行っています。
それでも、日本全体として歯と健康の関係についての知識を底上げする必要性を強く感じています。
歯の健康状態が改善すれば、医療費を大幅に減らすことが可能です。そういう意味でも、これは今の日本にとって非常に重要な課題だと考えています。
歯科治療が適切に行われるためには、治療費や評価を引き上げる必要がありますし、ある程度の自己負担がなければ、歯を大切にする意識も育ちにくいと感じます。
また、歯科医師自身のレベルが向上すれば、より健康レベルを高める治療が可能となり、結果として無駄な医療費や介護費用の削減にもつながります。トータルで見れば、社会にとってプラスになるはずです。
限界にきている保険制度そのものも、大きく見直す必要があると考えています。
たとえば、保険診療は一定の範囲に限定し、低所得者層を対象として多くを税金で賄う。一方で、それ以外の方は自由診療を受けやすくし、毎月徴収される健康保険料を大幅に減額したうえで、自由診療の一部を還付するような仕組みにすることも、一案ではないでしょうか。
また、生活習慣や健康管理の問題によって医療費が増大しているケースについては、一定のペナルティとして自己負担額を増やしたり、還付額を減らしたりするなど、個人の意識を変えるための方策も必要だと思います。
たとえば、酔って転倒し、何度も救急医療を受けている人の医療費を皆保険で全てカバーすることは、日頃から健康管理に気を配っている人から見れば、疑問に感じられても仕方がないのではないでしょうか。
さらに、保険が適用される超高額医療についても、より費用のかからない代替治療が存在しないかを検討・判断する専門機関を設け、医療コストを抑制する仕組みづくりが必要だと考えています。
一人の患者さんに対して、毎年何千万円もの保険料が使われるケースは、他に選択肢がない場合に限るべきだと思います。
実は、西洋医学では有効な治療法が確立していない慢性疾患であっても、東洋医学では治療が可能とされているものがあることも知られています。
(例:糖尿病、皮膚疾患、うつなど)
これらを積極的に活用するためにも、現状では指導できる医師が少ないものの、専門家を養成し、医学部教育に組み込んでいくべきだと、私は考えています。
